和食に合う甲州ワイン



 2000年11月。「美味しんぼ・80集」(小学館)日本全県味巡り山梨編の取材が行われ、原作者の雁屋哲さん、漫画家の花咲アキラさんらが、1週間にわたり山梨県内の食材を探し回った。
 そんな取材を通し、甲州ワインの意外な実力が明らかになる。

「寿司屋でどうしてもワインが飲みたければ甲州ワインしかない……」


勝沼ワイナリーズクラブメンバーのワイン
 「和食(味噌・醤油・米酢・生魚)に合うワインはない」という認識を持ち「美味しんぼ」の取材陣は、日本ワインのメッカ勝沼町に入った。
 ところが、そこで待っていたものは甲州ワインという日本の風土に根ざしたワインだった。
 それも……。

風土のブドウ・甲州ぶどう
甲州ぶどう 甲州ぶどうは、約1200年前、ヨーロッパからシルクロードを経由して日本に伝えられたと言われている。

 つまり、もともとヨーロッパのワイン用だった甲州ぶどうではあるが、10世紀を越える歴史の中で、日本の風土で育つ日本オリジナルぶどうになってきたのだ。

 そして明治の始め、このぶどうを資源として日本のワイン造りが山梨でスタートし、以後120年の歴史を積み重ねている。


和食に合う理由
 日本のぶどうになった甲州ぶどうの特徴は、甲州ワインの特徴でもある。下の表を見て分かるように、甲州ワインは酸の割合がヨーロッパのワインに比べかなり低い。
 これが、これまで甲州が「水っぽいワイン」と言われた原因でもあり、ぶどうの厚皮からの渋み・苦みと共に、ワインとしての評価を下げていた原因であった。


 しかし逆に、「和食に合うワインは存在しない」というのは、まさにこのワインの持つ有機酸が「和の食材」と喧嘩し合うからに他ならない。

 甲州ワインでは、この喧嘩がない。和食の原点、味噌・醤油・米酢・生魚とぶつかり合うことがないのだ。原作者の雁屋さんが、甲州ワインは「細身ですんなり柳腰」と評価したのは、この有機酸の少なさに理由があり、それが和食に合う理由でもある。
 そしてまた、「華奢だが芯に力がある」との評価の「芯」は、甲州種の持つ独特の渋み・苦みだと考えられる。


 実は「美味しんぼ」取材陣が飲んだ甲州ワインは、甘さがきわだっていたこれまでの甲州ワインではなかった。

15年間のチャレンジの成果
 1987年、勝沼の若手醸造家が集まり甲州ぶどうと地域を考える会が結成された。「勝沼ワイナリーズクラブ」(有賀雄二会長・勝沼醸造)だ。

 現在9社で構成する同クラブは、当初、品評会の開催、ワインコンサートやオリジナルボトルの製作などワイナリーができる範囲で甲州ぶどうの栽培面積の確保を通し、ぶどう棚の景観を守ろうとしていた。

 しかし、カベルネ、メルロー、シャルドネといった醸造専用品種の栽培を自分たちで始めてから、メンバーは甲州ぶどうの栽培までをワイン造りの範囲として考える様になってきた。より糖度の高いぶどう、熟成したぶどうを求めての契約栽培。さらには、新たな栽培方法の実践など…。

 これらの取り組みは、ワイナリーに訪れるワイン愛好家などの多くのビジターとの交流をきっかけとしてチャレンジされてきたこと。そして、そんなぶどうを使った辛口甲州ワイン、シュール・リー製法、樽発酵・貯蔵、氷果製法などテーブルワインとしての甲州ワインの可能性を広げるワインが次々と製品化され、それらが「美味しんぼ」取材陣を驚かせていったのだった。

 今までマイナスと言われていた甲州ぶどうの個性をプラスに活かすチャレンジ。雁屋さんは、今回の取材を通して、山梨県人の特徴「進取の気性」を改めて確認したと言う。ぜひ、10年後にもう一度評価してもらいたい甲州ワインである。

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