第4回ワイン行政論(2010年1月29日)
仲田道弘(山梨県観光ブランド推進監)/石原久誠(甲州市ワイン振興担当)

ワインにかける公務員の挑戦 ―3つの現場(ぶどう畑・ワイナリー・市場)の真ん中で―



はじめに

[笹本]
 こんばんは。今回は、全部で五回の講座のうち四回目になります。ハーフコースとフルコースとありますが、五回目まで参加される方、フルコースの方は次回もありますけれど、ハーフコースの方に関しては今回が最後ということになっております。
 これまで、栽培、それから醸造、産業とやってきました。これまでの講座というのは、栽培と醸造があって、マーケティングとか産業というものがあって、大体そのくらいのカテゴリーで終わっていたと思うんですけれど、この今回のワイン講座の特徴として私が拘ったのは、やはり行政がそこで入る。行政というような役割がやはりどうしても重要で、不可欠だというようなことがありまして、最初からこれは拘って入れさせて頂いたものです。
 後書きの方にも書かせて頂きましたけれど、今回ワイン行政論と言っていますが、ワイン行政というものは、日本に確立されているのか。実はされていないと思うんですね。例えばインターネットなどで、「ワイン行政」なんて検索しても、何も出てこないですね。今回のこの講座の紹介のページがヒットするくらいで、ワイン行政という言葉は日本にはまだ存在していないと思います。ただ、実際にやっている方々は、ここのお二人を代表していらっしゃるわけで、そういったことをまず知って頂きたいです。
 それで、この回には、行政の職員の方々もいっぱいいらっしゃいます。そういった方々にも、ワインの行政というものが、それも15年も20年も前から、この二人がやっていらっしゃるというのは、私も知って驚きでしたし、皆さんにも知って頂きたい事実が沢山ありますので、聴いて頂きたいと思います。
 実は、日本のワイン文化をつくる人々。副題になりまして、夕べのテーブルにおいしい日本ワインをのせるため、この副題の言葉は、実は仲田さんの言葉だったんです。俺の夕べの食卓に、美味しい山梨のワインがなくなったら困るという、やはり個人的な思いが本当に大切なんだと思っています。石原さんも、勝沼の地元で、本当に農家さんとワイナリーの間に立って、日々個人として奮闘している姿を見ております。また、仲田さんに至っては、この間、イギリスにワイン業界の方々が行かれましたけれど、仲田さんは、自費で行ったりしていらっしゃる方です。
 では、お二人にバトンタッチして、今回は私が若干コーディネートしていく進め方をして行きたいと思います。

[仲田]
 県庁の仲田でございます。よろしくお願いします。自己紹介という事で、そこにプロフィールがございますが、ちょうど私、50歳になります。1982年に山梨県庁に入りまして、28年間勤めておりますが、1990年から、ほぼ20年間、ワインばかりというわけではないんですけれど、地場産業とか、観光とか、そういうところのセクションにずっといました。なかなかこういう人は、県庁の中でも珍しいかと思いますけれど、何故か希望が通ってワインの周辺をうろうろしておりました。92年に仲田エンタープライズなんてありますけれど、どうしても行政の仕事ですと限界がありまして、個人で何かしなくてはいけないなということで、本を出したりイベントをしたりというようなことも同時に実施してきました。その辺は追々紹介させて頂きます。

[石原]
 皆さんこんばんは。私は、今回の講師陣の中で、一番最年少だと思います。今35歳で、早生まれなので、間もなく36歳になります。前回の鹿取みゆきさん、今回一緒にお話をさせていただく県庁の仲田道弘さん、それから総合講師の笹本貴之さん、皆さん本当に一流の大学を出て、著書が多数ありますけれど、私の場合ははっきり言って何もありません。今回、山梨学院大学付属高校のサッカー部が、全国選手権で優勝しましたけれど、僕もサッカーをずっとやっていました。当時は私の出身校である東海大甲府高が強くて、その学校に憧れていて、絶対に全国に出たいという強い考えを持っていました。私学だったので、親に相談して、是非行かせてくれということで、東海の門を叩きました。関東大会には出場しましたが、残念ながら選手権という舞台には立てずに三年間が終わってしまいました。同級生には、浦和レッズ等で活躍しました、大柴健二というような同級生も居まして、そういう一流の方と一緒にプレイ出来たということは、今でも自分の中で大きな財産となっています。
 その後、そのまま就職をしました。親父も公務員、県庁の職員でしたけれど、私は勝沼町ぶどうの丘に運良く入ることが出来ました。当時、東京の新宿三丁目に勝沼町のアンテナショップ「カーヴ・ドゥ・カツヌマ」というレストランがあり、皆さんの中には行かれたことがあるかも知れませんけれど、そこで4年間ウェイターをしていました。今思えば、そこが勝沼ワインとの初めての出会いでした。そんなことがあって、10代の頃から勝沼ワインと出会って、その後、21歳の時に公務員試験を受け、22歳の時に勝沼町役場に入りました。
 戸籍(窓口業務)を1年担当し、今度はぶどうの丘に行くことになり、そこでワイン屋さんの社長とか、従業員の方と面識を持つようになりました。その年の人事異動でワイン振興担当ということで、24歳の頃ですかね。役場に戻ることになりました。勝沼というと、ワインが有名ですけど、役場の中でもワイン担当というと花形なポジションなんです。なんで僕なのかな?と。たまたまワインをやっていたからかなというようなことだったと思うのですが、当時全然ワインに興味がなかったので、はやく違う課に行きたかったのですが、そうは言っても、長年この担当をさせて頂いております。今日はそんなことから、僕はちょっとリアルな話を心掛けておりますので、皆さんたちが感じることができない点を、今日は思い切り話したいなと思っています。よろしくお願いします。

[笹本]
 では、まずレジュメを見て下さい。1「日本ワイン市場」、2「日本のワイナリーの概況」、3「山梨の葡萄の生産状況」、4「ワイン関連法」、5「ワイン行政」というふうな形で、ざっと資料があります。まずは仲田さんに1番から、5番の途中くらいまで、行政的な観点から見た全体像をご説明頂きまして、それからまた個別に行きたいと思います。


日本のワイン市場

[仲田]
 まず、一番最初に、1月11日に、ロンドンに山梨のワイナリーが15軒まとまって行った時の山日新聞です。和食ブームに乗り販促、ということの一方で、国内市場拡大が先、というような両論が書かれています。この中で、若干気になったところもございまして、国内市場でのワインの出荷量のうち、甲州種ワインが占める割合は、0.08パーセント以下と小さいのだから、まず国内市場をやるべきだというようなことが書かれています。
 ぶどうの収穫量の話は理解をすることはできるんですが、こればかりだというわけでもないということを、これからざっと見ていきたいと思います。
 はじめに、日本のワイン市場でございます。国税庁の統計で、昭和37年からの、ぶどう酒プラス甘味果実酒の出荷量です。緩やかな右肩上がりということなんですが、よくよく見ていきますと、ところどころで山がありまして、1972年には、外国のワインの輸入が解禁されて、そういうものが入ってきたということを示しています。それから、第二次としては、77年、78年くらいで、千円ワインですね。国産の千円ワインが出てきたと。ここで少し上がってきている。それから、次はこちらなんですが、これが第三次ワインブームの、一升瓶ワインですね。続いて、これは割合甲州に影響が非常に大きかったんですが、ボジョレーとか、新酒ワインのブーム。それから、物凄いピークを築いたのが、赤ワイン・ポリフェノールのブームというふうな形で、市場ができてきました。
 これは30年スパンのデータなんですが、約4倍になっています。今言った、紆余曲折をしながらマーケットに引っ張られる形で、日本のワイン市場がふくらんできたということが言えるかと思います。
 国産ワインと輸入ワインの出荷量の比率でございますが、平成5年を境にして、50パーセントのシェアを国産ワインが切ってから減少して、今は34パーセント。三分の二が外国のワインということになっております。
 それから、国産のワインの中でも、他県産のワインと、山梨県産のワインという比較なんですが、下のブルーの印が、県産ワインで、ほぼ25,000キロリットルで、30年前も今も推移しているという状況になります。この理由は明らかで、後で説明したいと思いますが、データがここにありますので参考にして頂ければと思います。これは国税庁で毎年発表しているデータで、県の施策等のベースはこれらに基づいております。
 それから、県別の課税出荷量でございますが、これは山梨県が27,276キロリットルということで、33.8パーセント。よく言われるのが、県産ワインが3割とか4割というのが、ここのところですね。何故か神奈川県が第二位ですね。それから、岡山県、栃木県と。この辺のところなんですが、実は山梨県のほぼ9割が、マンズさんとサッポロさんと、サントネージュさんで、神奈川県産は、メルシャンさんですね。岡山県はサッポロさんがあります。栃木県は、サントリーさんですね。そういうところが、ほぼ日本のワインの8割を占めておりますので、国産原料では当然ございませんが、そういうデータとなっております。
 これは、国税庁のぺージにある資料なんですけれど、この生ぶどうをどれだけ使っているかというデータですね。国産ワインにおける主要原料構成比、平成19年でございますけれど、このほとんど、まあ、四分の三が、外国原料の濃縮果汁を使っております。濃縮果汁というのは、大体3倍か4倍濃縮したものだと思いますけれど、そういうジュースを運んできてこちらで発酵させるというようなものでございます。残りの四分の一が生のぶどうでつくっているものということで、統計を見る場合は、山梨県が一位でうれしいということではなくて、当然こういうことも頭に入れて頂ければと思います。
 それからこちらが、加えて、バルクワインの輸入。今までの濃縮果汁につきましては、国内で発酵させておりますので、国産ワインというような位置づけでございますが、バルクワインもこういうふうな形で、14パーセントくらい入ってきているということになっております。
 このことを全部まとめてみますと、バルクワインが14パーセント、国産原料が22パーセント、輸入原料ワインが64パーセントという状況になっておりまして、これを甲州で見ますと、甲州のウエイトが、2,500キロリットル。平成19年だと思いますが、このように甲州は、国産原料のワインの中で、14パーセントのウエイトを占めると。全体の、バルクまで含めた国産ワインに対しての中では3パーセントということです。
 それから、ここに一番最初の山日新聞の、0.08パーセント以下という数字は、とりあえずここの段階でもおかしい数字だということを是非ご理解頂きたいと思います。それから、メルシャンの推計なんですが、赤白ロゼワインの構成比でいきますと、白ワインが、2004年の段階ですと35パーセントということで、国産原料ワインの14パーセントが甲州だということを考えますと、日本の国産原料の白ワインの約4割が甲州ワインだということが言えます。
 こちらは国税庁のページにある全ての、平成7年からのデータでございます。これは若干、統計の取り方が違って、数字が違うんですが、作った量の、バルクワインのウェイトが段々減ってきているという状況がこちらでは見て取れるかと思います。ただし、国内の原料をどれだけ使っているかというのは、なかなか苦戦をして、ボリュームが大きくなって、国内の原料割合が減ってきています。輸入ワインまで含めてみますと、輸入ワインは日本の市場の三分の二でございますから、国産原料のワインは、たったの7.5パーセントという形になります。この中で比べてみましても、国産原料ワイン、7.5パーセントのうち、甲州は、1.1パーセントということになるかと思います。日本のワイン市場における甲州は百分の一と。100本に1本は甲州だというのが、現実でございます。
 続きまして、ぶどう酒、ワインの年間消費量になりますけれど、こちらで行きますと、先ほどの出荷量=消費量。実はこの国税庁の統計は消費量というよりも販売量でございまして、一人当たりの順位で、山梨県は一番飲まれていますよと言うことなんですが、これはお土産用のワインも入っている数字でございます。1番が山梨県、2番が東京都、3番が北海道。北海道もかなりお土産用のワインが入っているかと思います。そして4番が大阪ということで、大都会が大きなマーケットになっているという状況になっております。
 次に、こちらの数字が、実際にどれだけのワインを飲まれているかという、総務省の加計調査でございます。全国9000世帯が分母なんですけれど、土産品は別の項目に入っておりまして、大体実際に飲まれている数字ということになるかと思います。県庁所在地同士で比べておりまして、甲府市の消費量がこちらのこういうデータになるんですけれど、全国的には上回っているんですが、最近ちょっと下回ったり、同じだったりしております。
 大体、一家で2000ミリリットルということですので、3本という形になっております。総じて伸びているという状況です。甲府市の順位だけ見ますと、過去はほとんど1位から2位、3位、4位という順番だったんですけれど、最近見ますと、20位とか、こういう数字になっています。
 実は、この1993年のところで、我が家に家計調査が入りました。前年、甲府市は17位ということで新聞にも大きく取り上げられて、ワインは作るけれど、飲まない県だということを言われました。そこで、私のところでちょっと取り戻さないといけないと思いまして、取り戻すといっても、嘘を書くわけにもいかないので、2週間あるんですが、毎日ワインを2本ずつ飲みました。それで、体を壊し、ワイナリーの人からばかだと言われましたけれども、これが1位になったからといって、そんなに嬉しいことでもないんでしょうが、要するに、何か自分でできることがないのかなという中で、やったことの一つでございます。こちらは年間のお酒の全ての消費量でございます。ここまでがビールとか発泡酒とか、ビール系の新しい飲料となっています。ワインがこちらですね。
 こういう形で推移していますが、トータルとしては、お酒の量は減ってきています。ワインにつきましても、平成10年が特異な年ではありますけれど、平成19年に1パーセント程度シェアが減っております。専門家の間では、やはり人口が減少していく、若者のアルコール離れというふうな中で、ワインにつきましては、マスマーケット対応の商品ではないということで、可能性はなきにしもあらずということなんですが、一人勝ちというわけにはいかないと。全体の市場の減少の中で、ワインについても、減少、あるいはある程度のポジションで限界になってくるというような予想が立てられております。


日本のワイナリーの概況

[仲田]
 次に、日本のワイナリーの状況です。こちらの図が、日本のワイナリーの醸造量別の比率ですね。平成19年度でいきますと、大手の五社、先ほど申し上げました、メルシャン、サントリー、マンズ、サッポロ、アサヒビールですが、メルシャンさんは非常に分かりやすくて、イコール神奈川県の出荷量となります。25,000キロリットルですか。そういう数となっております。それから、次の1,000キロリットル以上というところが、県内でも、もしかすると一社あるかという形なんですが、ほとんどの県内のワイナリーが、こちらになりますね。100キロから300キロ。300キロ以上のところは、数社です。ほぼこちら、あるいはもうちょっと小さいという事になっています。
 続きまして、大手五社で言いますと、先ほども言いました通り、8割強のワインの醸造量となってきております。経営状況でございますが、大体600億弱。売上総利益が、200億。それから、営業利益が15億ですね。これは営業利益率としては非常に低い、2.4パーセントくらいかと思いますが、これは大量生産型の営業利益率となっております。そして、この下の方でございますけれど、50パーセントのワイナリーが、非常に経営が苦しいという状況になっております。欠損、あるいは低収益。低収益というのは、税引き前の利益が50万円未満という状況になっております。そうじゃないところも当然ございます。


山梨の葡萄の生産状況

[仲田]
 次、ぶどうの生産状況です。山梨のぶどうの生産状況をこちらの表で説明します。ちょっとグラフの線がダブって見づらいんですが、これが全ぶどうの品種の収穫量。ピオーネと巨峰とか、そういうものを含めたものです。甲州の収穫量がこちらですね。地を這うような形です。大事なのが、その栽培面積なんですけれど、栽培面積についても、こういう形で最近は緩やかな形で下降減少しております。これはスパンが結構大きいので、こういう形になってきております。
 こちらの25ページの表が、甲州のぶどうの生産量と、その中でワインに仕向けた量の推移となっております。甲州につきましては、1991年の新酒分――ボジョレーとか、国産でも新酒――を作った時に、12,500キロリットル、ほぼ8割方がワインに向けられたという状況です。こういう中で、ぶどうの生産量が横ばいという状況になってきている。
 激変するのが、こちらの新酒ブームが去った後でございまして、これが半分以下ですね。三分の一になっています。ここが甲州の歴史の中で、一番大きな激変でありました。
 それから、また少し赤ワインブームと共に持ち直して、ブームが去った後下がって、最近はほぼ横ばいと。最近、若干メディアに取り上げられて、甲州がブームというようなことを言われますが、ほぼ横ばいというのが正しい認識ではないかと思います。
 当然原料の方のショートはあるということは言えます。このような市場の中で、右肩下がりの甲州の生産量ということで、少し横ばいになってきたと。問題なのが、2007年以降の甲州の生産量、国が統計をとらなくなりました。分からないという状況です。県もなんとかしようかということを考えているようですが、実際どれだけ甲州が作られているかという公式な数字は2009年、2010年と出ていません。
 このデータから分かるのが、生食向けとワイン仕向け量のウェイトが、ワインの需要に引っ張られるようにして、ワイン仕向け量の方に偏ってきて、また下がって、また伸びて、また最近では戻りつつあるというような状況になります。
 こちらは甲州市勝沼のぶどうの取引きでございまして、最近は、その系統外取引、個別取引が倍くらいあります。農協だけのデータで甲州がどれだけ作っているかというのは非常にわかりづらいというところかと思います。
 こちらが甲州市内における欧州系のぶどうの生産量ですが、こちらは今まで申し上げた、ぶどうの生産量の減少というのが、やはり構造的な農業の高齢化であるとか、跡継ぎがいないであるとか、荒廃地であるとか、そういうことの影響を受けているということです。ただ、次の30ページの表ですが、農業生産の推移ということで、山梨県は10アールあたりの農業生産所得が、ずっと高い、平成17年についていうと15万円ですね。平均15万円なんですが、ぶどうは、大体60万円くらいの反収となっておりまして、手間がかかるということではあるかと思いますが、商品作物の代表的なものとして、ぶどうが山梨の農業生産を上げているという表でございます。
 こちらは卸売市場経由率の推移ということで、果実につきましては、ぐっと下がっておりまして、ぶどうについても多分5割を切っているという状況になるかと思います。


ワイン関連法

[仲田]
 次に、ワイン関連法につきましては、日本にワイン法がないということなんですが、ワインに関する醸造関連とか、免許とかその辺は酒税法で定めております。果実酒とはどういうものかということが、こちらのイからニで定められて、免許とすれば、果実酒でいうと、6キロの生産の枠がはめられていて、様々な施行令であるとか規則であるとか、通達であるとか、食品衛生法とか、そういう形の物で規定がされています。もう一つが、表示関連で言うと、所謂「酒税の保全及び酒類業組合等に関する法律」の86条の5、これが表示関連の義務的な表示。あるいは地理的表示につきましては、86条の6という所に定められております。
 地理的表示につきましては、後ほどちょっと議論になるかと思いますけれど、国税庁の告示で、日本の場合は、こちらの焼酎の乙、薩摩とかこういうところですね。それから、清酒で言うと、菊姫、天狗舞なんかの白山ですね。そういうところが、日本の法令に基づいて保護されているという状況になってきています。
 ワイン表示の自主基準が、これが事実上、今、日本のワインを表示の部分で規制しているものでございます。75パーセントとか。100パーセントとか色々ありますが、かなり自主基準として、機能している表示でございます。


ワイン行政

[仲田]
 次に、ワイン行政として、なんでワインを振興しているのかですが、こちらが、ちょっとデータは古いんですが、山梨県内のGDP の総生産ですね、付加価値。一年間内でどれだけ付加価値が上げられたかというデータなんですが、製造業は27パーセント、サービス業は21パーセント。付加価値と言っても、半分以上が生産にかかる人件費とか、サービスにかかる人件費でございます。
 ではワインはどうかというと、色々データはありますけれど、ワイン産業、これは工業統計のデータですが、160億、34社、660人。従業員4人以上の企業でございます。製造業の中でのウェイトはここにありますが、県の経済の実力である県のGDP の割合で言うと、0.15パーセント、あるいは、従業員では、0.5パーセント。誤差とは申し上げませんけれど、ほとんど経済的には、貢献していないという状況になっております。
 では、何故そんな、行政がワインを言うかというと、山梨県のイメージと、ワイン産業のポジションという形で示させて頂きましたが、これは一つの指標でございますけれど、こちらは東京でアンケートした平均年齢36歳の女性226名の結果です。山梨のイメージとして、ぶどうが20パーセント、ワインが18パーセント、ももが12パーセント、フルーツが11パーセント、富士山は5パーセントと。私ども観光部とすれば、もうちょっと富士山を売っていかないといけないかなという気もしますけれど、ワインの山梨県におけるイメージというものが非常に高いということもございまして、ワインをプロモーションすることが、山梨のリーディング的な意味合いとして、価値を持つということとなっております。

[笹本]
 石原さん、コメントがありましたら、どうぞ。

[石原]
 まず山梨。今、皆さんご覧になって、生ぶどうからワインが造られていないという現状が圧倒的に多いということがお分かり頂けたと思います。生食用ぶどうの伝統的産地ということが足を引っ張っているのだと思いますが、農家にも、ワイン用ぶどうという概念がない。特に勝沼は、前記を理由に、ワイン用ぶどうの視点を持ち合わせた農家が少ない状況にあります。なので、山梨の課題というのは、一にも二にも三にも、ぶどう。ワイン用ぶどうの視点を持つことが重要。これありきです。
 後のワインの品質がどうだこうだというものは、僕の観点ですが、ワイナリーに任せておけばよいと考えています。醸造技術の向上というのは、ワイナリー自身の問題ですから。だから、行政はワイン用ぶどうを栽培するための枠組みを早く作るべきですね。新規就労者が非常に少ない。また、高齢化が著しい。先はもう分かっている。そういう現状があるから、地域農業を活性化させる必要があるのです。具体的な、抜本的な取り組みを実践していかないと駄目ということですよね。そこをもっと我々も認識しなくてはいけない。それに尽きると思います。

[笹本]
 では、レジュメの一番最後のページに折り込まれている図を見ながら聴いて頂きたいと思います。随時、パワーポイントに関しては、説明しながら使って頂きますので、全体図を見て下さい(〈図5〉参照)。
 まず、真ん中に消費者がいらっしゃいます。今回はワインにかける公務員の挑戦、お二人の挑戦で、三つの現場、つまりぶどう畑、ワイナリー、それからマーケット、市場ですね。その真ん中に位置するもの。または真ん中というか、その後ろに位置するものとして、行政、公務員の挑戦ということで、説明をしようということでお二人にはお話をして頂きました。この三角形、マーケット、ぶどう畑(ぶどう生産者)、それからワイナリーというものの中に、消費者がいる。それぞれの分野において、行政、お二人の取り組み、挑戦があるということで、説明を頂きます。まず、右の方に、課題1とありますね。ぶどう生産者の上に、課題1、ワイン醸造用ぶどうの高品質化、こちらに関して、では、仲田さんの方からご説明をお願いします。


葡萄生産をめぐる課題

[仲田]
 ぶどうの生産の関連で、課題としては、二つありまして、一つはやはりぶどうの高品質化を進めていくと、これまでワイン用に作ってこなかったぶどうについて、どうしたらいいか。もう一つは、原料の確保という意味合い、ワイナリーから見れば、契約栽培とか、農業参入とか、そういうふうな形のものでございます。
 実は、醸造の方まで含めて、43ページなんですが、県ではワイン産地確立推進会議ということで、今後10年間の指標を作りました。それは、現状で言いますと、国内他産地の追い上げ。ぶどう生産地で言うと、ワインコンクールでも、長野、こちらは、メルシャンさんとか、マンズさんとかが中心のうちはまだ良かったんですが、段々地元のワイナリーまで、賞を獲るようになってきたという状況でございます。醸造地とすると、山梨の方が多いんです。これは4回までの合計ですけれど、ぶどう生産地とすれば、山梨は四分の一くらいになっている。金賞ですね。これが質の面。
 もう一つは、先ほど言いましたけれど、輸入ワインの増加の中で、県産ぶどうの割合が、15パーセントくらいしかないという状況であると。こういう現状の中で、対応策として、ぶどうの高品質化については、系統選抜、あるいは栽培技術の確立、それからワインセンターと果樹試験場の分析とか指導体制の充実という事で、ワイナリーには試験圃場を提供して頂いて、山梨県としては、試験研究を行なっています。それから山梨大学と一緒になって、人材の育成という形の対応策をとってきております。
 また、原料のぶどうにつきましては、欧州系はもうワイナリーが直接自園でやっていくと。甲州、ベーリーA については、契約栽培とかワイナリーの農業参入という形で、質と量において対応する中で、ワインの産地を確立していこうということを考えてきております。
 これを考えたメンバーの表もつけておりまして、有識者としては、山梨大学の副学長他4名、ワインの方は、当時のワイン酒造組合の会長の上野さん他4名で、流通、それから全農とか、JA フルーツとか、実際にぶどうをつくられている、韮崎市穂坂地区の保坂さん、あと、行政の関係者の面々で、これらの話を致しました。
 通常行政では、ここまではよくやるんですが、実はここから4枚が非常に細かい資料になります。実際のアクションプログラムでして、例えば、見て頂きたいのは、こちらですね。47ページ。優良系統品種の選抜、クローン選抜というものに対して、主要欧州系と甲州に分かれて、どういうふうな形でやっていくかと。例えば甲州の優良系統の選抜、今、21年度ですけれど、ちょっと最近、私が見ていないので分かりませんが、ワイナリーなどから優良の系統を選んで、果樹試験場でフリー化をしながら、現地の母樹の品質管理をしていくと。それからできたものを、フリー苗を増殖させて、現場で試してみると。その果汁とかの分析をワインセンターの方で分析機器を整えながら、やっていきましょうということで、こちらは7,700万、栽培技術につきましても、海外等からの招聘、あるいは海外等への派遣を含めて、こちらは4,600万円という形で、栽培技術と品種、優良系統の選抜で10年間で1億5,000万かけてやりましょうと。
 それから、醸造技術ですけれど、こちらについても、特に小規模ワイナリーの重点的指導、あるいは、若手醸造家と農家の研究会など、こちらのネットワーク、あるいは様々な交流の中で、モチベーションを高めていくということをやりまして、合計で10年間で1億7,000万円というお金をかけて、ワインの品質向上と醸造技術の確保、向上を図っているという状況です。県として、こういう形で、10年間で1億7,000万というのは、ちょっとびっくりする数字かなと思います。
 石原さん、さっきの会議にも出たと思うんですけれど、行政と言っても、県の立場と、地元の市の立場って違うと思うので、その辺から何か。

[石原]
 そうですね。今、仲田さんがお話したとおり山梨ワイン産地確立推進会議において、山梨が進むべき10年のプロジェクトが示されました。2003年(平成15年)から国産ワインコンクールが始まりまして、特に欧州系醸造専用品種の結果ですね。第2回目くらいから甲州種は欧州系のカテゴリーから外れましたけれど、ワイナリーは山梨にあるが、ぶどうは長野という、そういう、やる前からある程度分かっていた結果となりました。山梨よりも長野のワイン用ぶどうが多いため、長野のワインが上位に来るというある意味当然な結果となったわけです。この結果を踏まえ、山梨がどうしていくかということで、県が今までの縦割り行政を払拭して、横断的なプロジェクトを始めたわけです。農政部と商工労働部が連携を取って、やっと出先機関の果樹試験場において甲州種ぶどうのウィルス検定を含むワイン用甲州種ぶどうの系統選抜が始まりました。
 甲州種ぶどうは、生食用に系統選抜されていて、生食用に仕立てられています。実は、随分と前からこの甲州種ぶどうの系統選抜については、県ワイン酒造組合が県に要望をしていた経緯があるのです。しかし、甲州種の取引に限っては、今までワイナリーが農家さんとの取引を自分達の都合で決めていましたから、50円でよいから置いて行け、100円でよいから置いて行け、というように農家のぶどうが安値で買い叩かれてきた現状がありました。よって、果樹試験場もワイナリーのためだけになるような研究はしたくないという方針だったと思うのです。
 ただ、この結果を踏まえて、もうこれは何とかしなくてはならないということで、やっとこの様なプロジェクトが始まったのですが、僕も当時、先程仲田さんがお話したように、この会議のメンバーは当初うちの課長であったのですが、合併後間もなかったことから、状況が分からないため、私がこの会議に参加をさせていただきました。会議では色々な意見を言いました。このプロジェクトの中で私が特に注目しているのは、先程から出ている甲州種の系統選抜です。現時点では、母樹の育成に入っていると県の担当から聞いています。
 しかし、そのフリー化されたワイン用甲州種ぶどうが、農家さんのところに行き渡るのは、何年後になるのかというのが気掛かりなのです。系統選抜というのは長い時間を要し、実際、甲州種ぶどうは、一般的に棚で大木に仕立てるので、実が安定するまでに7、8年を要すると言われています。植栽してからですよ。だから、研究期間を含めると20年くらい時間を要するのです。この間に後継者は今より少なくなる。よって、プロジェクトの時、その様な議論は無かったのですが、農家がどう植えるかというところを考えていかないと、この研究は水の泡になってしまいます。この部分を、県、そして甲州市が、考えなくてはいけない。
 また、甲州種ぶどうは、単価の問題があって、甲州市、特に勝沼地域のぶどう産地では、10アールで100万円の農業経営を目指していますから、この講座の第一回目の小川さんもお話していましたが、甲州種ぶどうというのは、大体ワイン用で150円から200円が相場です。よって、この系統選抜試験にしても、勝沼で需給バランスを調整する会議を開催しても、多くの農家は甲州種ぶどうの栽培に魅力を感じないのです。私も農家の立場であれば、甲州種ぶどうを栽培しようとは思わないはずです。
 また、勝沼町の菱山地区(勝沼ぶどう郷駅近く)には、多くとは言いませんが、それなりに後継者が居ます。私も彼らとは同世代なので、付き合いがあります。彼らと消防や無尽で会談する際、「甲州種ぶどうを栽培する気はある?」と投げ掛けたことがあります。彼らからは、「甲州種ぶどうはお金にならないから、栽培しない」という返事が返ってきます。それが現場の声だと思います。だから、もっともっと農家がつくるためにはどういう方策が必要か。知恵を出さないと、本当にこの産地は、危機的状況に陥ってしまいます。ワイナリー自園で栽培したらどうかということもありますが、甲州種ぶどうの栽培におけるワイナリーの自園が普遍的に拡がらない理由というのは、コスト高になり、採算性が取れないことなどが挙げられます。このことが起因し、ワイナリーも自園栽培に踏み込めないと思うのです。甲州種ぶどうの栽培に関しては、ワイナリーの栽培担当者よりも農家の技術の方が高いので、踏み込めないという理由もあろうかと思います。
 以上のことから、どうしたらよいのかということで、今、非常に悩んでいます。私はそこを重点的に、これからのぶどう・ワイン振興というものは考えていく必要があるということを声を大にして言いたいです。

[仲田]
 声を大にして言いたいのだったら、解決策はどこにあるのですか?

[石原]
 まず、解決策は、最近、甲州種ぶどうを栽培してもよいという人も居るのです。少数派ですけれども。なぜかと言うとそれは、経営の主体は生食用ぶどうに置きたいけれども、今後、労力、体力的に厳しいから、巨峰種やピオーネ種といった大房系高級品種を栽培する代わりに、甲州種ぶどうを栽培してもよいというわけです。そういう潜在的な考えを持つ人も居る。
 後は、お勤めの人が今多いのですが、その兼業農家の方達の中には、自分達が持っている先祖代々引き継いだ土地(農地)というものを他所様には売りたくないと考えている方が多いですから、その様な人達を対象に、土・日を利用して栽培のノウハウを教えて、甲州種ぶどうを植えて行くような仕組みを作ってあげるとか、そういう新しい斬新的な方策を、今考え、取り組みを模索しているところですね。ちょっとまだ、具体的に踏み込んだところまでは行っていませんけれど。一応そういうところを視野に入れていこうと考えています。

[仲田]
 私は、結局はワイナリーが責任を持つということだと思いますよ。ワイナリーがぶどうを作るということ。農家の方に安く作れというのは、もう難しいと思いますので、自分で作ると、多分1キロ、400円になったり、500円になったりしていかざるを得ないのかと思いますけれど、それで売れる市場を見つけていかなくてはいけないのかなという気はします。
 それから、あと、農家の方も、どんどんワイナリーを作って欲しいと思います。こだわっているところがあれば。今、北杜市がワイン特区になっていまして、2キロリットルでも免許を取れるようになっている。一定の条件はありますが。そういう形で、ワインが魅力と思うのであれば、農家の方もワインを作ってみると。ワイナリーも当然原料が自分の命ですから、原料について責任を持つということだと思います。甲州の原料が200円でワイン価格が1,500円から1,700円くらいのところでしか動かないのであれば、農家が甲州を作らなくなるのは仕方がないと思います。


ワイナリーをめぐる課題

[笹本]
 はい、今のような関連の中で、次の課題の2ですね。左下にありますけれど、ワイナリーの方の課題の中で、今の流れに関連する形でお願いします。

[仲田]
 ワインセンターのところの表なんですけれど、昭和10年には、山梨県内にワイナリーは3,000あったんですね。それで、15年には2,700。その後、どんどん統合されて、現在では80ワイナリーになってきているんですが、もう当時はぶどう生産とワイン生産というのはイコールだったんですよね。
 ただし、第1回の小川さんの話の中でもあったように、原料がほとんどで、ワイナリーは絞るだけだなんて言いますけれど、そんなに簡単に作れませんよ。特に甲州は非常に難しいワインで、繊細なので、作り方を間違えるとすぐ微生物に汚染されたり酸化したりして、茶色く濁ったり香りが立たなくなったりします。その辺のところは、きっちりしないと作れないということで、ワインセンターが今から30年くらい前、重点指導を各ワイナリーにしました。各ワイナリー、希望する大手以外のワイナリーですね。そこには、中央葡萄酒もあったり、丸藤もあったり、そういうところが重点指導という形で、今の技術を持つ、本当の原型になってきております。
 このワイン産地確立事業の中でも、それをやっていこうということで、現状どうなっているか、ちょっと細かくはつかんでいないんですが、ここにありますように、指導チームを、ワインセンターだけではなくて、組合――と言っても大手の企業――の方々とワインセンターで組んで指導チームを作って、小さな所へ行きましょうということを計画をしております。これが特に甲州なんかを作る場合の一番大きな技術的な支援策ではあるかと思います。
 それ以外に、メルシャンさんでは、きいろ香というワイン、色々評価は分かれるかと思いますが、その醸造を通して、非常に地域の小さなワイナリーの方々に技術を提供して頂いて、一緒になっていいワインを作ってきているという状況になってきています。さきほど少し話をしましたが、この若手醸造家と農家の研究会ですね。メーリングリストというのがありまして、非常に活発に情報交換をされています。60人くらい入ったりして、いい感じではいるんです。このように、醸造の技術を上げたり、栽培に近づいていったりというふうなことをやってきております。

[笹本]
 おそらく、石原さんの同級生なども、そういった先ほどの若手の中にいると思うのですが、その辺りに関係して、課題2についていかがですか。

[石原]
 私の同世代には、ワイン作りに携わっている人間が比較的多く、一番仲の良い、幼なじみでもある、ダイヤモンド酒造の雨宮吉男とは、仕事は違いますけれど、私はライバル意識を持っておりまして、彼が、若い世代を引っ張っていっている印象を強く抱いております。最近、彼が作った、マスカット・ベーリーA 種のワインが高い評価を受けています。大手の技術者もかな評価をしています。彼は仏・ブルゴーニュに遊学し、研修をしてきたのですが、そこで習得した技術を、日本固有のぶどう品種、特にマスカット・ベーリーA 種に反映させているところでは、かなり成功している例かと思います。
 彼のことばかり言うのもなんですが、彼の良いところは、畑を意識しているところです。私の家と彼の家は近いのですが、私が住んでいる勝沼町下岩崎地区、勝沼醸造さんをご存じでしょうか。私の家は、あの通りの少し上方にあるのですが、この地域。勝沼町岩崎のぶどう畑、特に河川敷は、砂地の畑が多く、砂地の畑の特性としては、酸度が高く、糖度はそんなに上がらないですが、骨格があり、比較的個性が出やすいかと思っています。彼は今、そういった河川敷、河岸段丘の畑に着目しているようです。
 このように、これからのワイン作りは、各地域のそれぞれのエリアから、個性、特徴のある、その地域を反映した味というものを出していく必要性があるのではと感じています。また、私のひとつ後輩には、山梨ワインの野沢たかひこが居ますけれど、彼も、その地域を反映させたワインを造り出そうと日々努力しています。若手の良いところは、畑を意識している点であります。

[笹本]
 仲田さん、それは若手の方々がそういう傾向が強いのでしょうか。

[仲田]
 まあ、若手というか、甲州に限ったことではないんですが、一番最初に衝撃的だったのは、メルシャンさんの城の平ですよね。それを真似して、里山でやろうということで、丸藤とかそういうところが引き継いで、彼らに習うような形になって、ダイヤモンド酒造とか、山梨ワインとかが、やってきているのがこの25年くらいだと思います。
 今日、機山の土屋さんが来ているんですが、1,200円で売っているじゃないですか。甲州とか。よくやっていますね。それはちょっと、沢山作っていないからかも知れないんですけれど、そこに生き残る道もあるような気もしますが、ぶどう、甲州の作り手がなくなってきて、自分が作らなくてはいけないとか言って、経営、成り立っているんですかね。

[土屋]
 うちはワイナリーなんですけれど、採算は出ております、甲州種のワイン、1アイテムだけなんですが、小売価格1,200円です。多分、一年後には100円上げる予定なんですけれど、安く抑えているつもりも、高く売っているつもりもないんです。
 うちは家族だけでやっているので、小さなワイナリーというイメージを皆さんお持ちだと思いますが、1,200円のワインを、年間約10,000本くらい作っていまして、それで、利益が出ないということはないです。むしろ、一般的にワイン業界で言われているような値段帯、例えば1,500円なり2,000円なり、あるいは自家農園のぶどうだと、3,000円でなくてはという一般論は、僕はちょっと理解できないでいます。コスト等は、ぶどう栽培もワイン醸造も根本的に見直す必要がぼくはあると思っています。

[仲田]
 多分、1,500円のワインでも、問屋に出す時は1,000円なんですよね。土屋さんのところは、消費者でも小売りでも問屋でも1,200円は1,200円ですよね。
 若干負けてくれる時もある? そんなことはない? ないそうです。すみませんでした。

[石原]
 私は、機山洋酒の土屋さんのワインを頻繁に買うのですが、非常に美味しいですよね。1,200円で、これだけ高いクオリティを持っているかと思うと驚きです。土屋さんのワインを、昨年家で飲んでいた時に、少し時間を置いて飲み直したら、物凄く変わっていて、その熟成というか変化に驚かされました。香りが更に引き立ち、味わいが一層良くなる1,200円のワインで凄いなと、正直思いました。
 昨今、リーズナブルな甲州種ワインが少なくなってきたように思います。シュール・リー製法のワインなども、1,500円のシュール・リーを探す方が難しくて、増税などの影響もあるんでしょうが、今、1,700円、1,800円は当たり前ですよね。これはぶどうの値段も上がっていることも背景にあります。国際的視点から見ると、ワインの価格というのは、大体原料ぶどう価格の7倍から10倍で売られているのですが、甲州種ぶどうは一昨年から収穫量が激減し、それに伴って原料価格が大幅に高騰したのです。
 甲州市勝沼地域では、ワイン用甲州種ぶどうの取引は、糖度取引制度を導入しています。糖度で基準を決めて、そこで取引価格が決まってくる。糖度以外の客観的な基準というのは無いのです。酸度、pH、香り成分など、取引における指標は色々あると思いますが、客観的な農家、ワイナリー双方の視点から見て、手っ取り早い手法は糖度なんですね。
 今、勝沼では基準糖度を16度に設定していまして、その取引価格は、170円なんです。それに産地振興奨励金というのが10円プラスされるので、最終的には、1キロ当たり糖度16度のぶどうは180円になるのです。一昨年から取引価格が上昇しました。これは、ものがないということから値段が引き上げられまして、勝沼町外の他地域のぶどうよりもかなり値段が高くなっている状況であります。ぶどうの品質が向上して値段が上がるのでは良いのですが、ものが無いから値段が上がるという最悪の状況なので、需給調整のバランスを整えるのが難しい状況にあります。ワイナリーも相応の値段で原料ぶどうを購入し、1,000円から1,500円程度で販売していかないと、市場性と上手く合致しないので、回っていかないのかなと思うのです。
 今回も、実は1キロ当たり250円という価格が出たんです。これは結局ワイナリーが引き金を起こしており、甲州種ぶどうが無いという現状を見越したあるワイナリーが、250円という数字を農家に提示したのです。それが農家の間で一人歩きしてしまって、農家は250円という数字を意識し始めた。250円でなければ、ぶどうを売らないという話にもなったのです。原料ぶどうを250円で買ったら、小売3,000円程度で売らないとワイナリーは採算性が合わないという話になる。
 甲州種ワインが小売3,000円では量がはけず、鈍くなり、売れなくなりますよね。そうすると、ワイナリーは在庫を抱え、来年以降の取引に余波を残してしまうのです。なので、農家にとっても、ワイナリーにとっても、市場性を鑑みても、今年の取引を経て私はわかったのですが、200円という数字が一つの基準かなと。上手く200円で取引するような形になれば、市場性と合致して、スムーズに循環していく形になると思うので、今後、200円で作って行く形を、考えていく必要があるかと思っています。

[笹本]
 多分、前回も前々回もその前も、価格の話が出ていると思います。1キロ当たりいくらで甲州をやる。それに対して今、土屋さんからあったような、やはりコストそのもの、そういうこと自体を見直す必要があるんじゃないか。色々な意見があります。これは、そのための話をしないとならないくらいに深い話になってしまうと思うので、これは別の機会のワイン講座の話に持ち越すとして、一応話として今日は聞いて、面白いいくつかの課題が出ていると思いますので、そのような中で次に移ろうと思います。


マーケットをめぐる問題

[笹本]
 三つ目の課題ですね。流通販路、ブランド確立ですね。今回だいぶ話題になりました、流通のこと、ブランドのことについて、では仲田さんからお願いします。

[仲田]
 今のぶどうの価格の話も、最終的にマーケットがどういう形でワインを買ってくれるかというところから考えないとならないと思います。事実、過去も、日本のワインのマーケットは、市場のブームで伸びたり小さくなったりと、マーケットが引っ張る形でワインの価格が高くなったり、品質が良くなったり、原料が高くなったりしています。だから、先ほどの石原君の意見もそうなのかなと思うんですが、やはり消費者をベースにして考えないといけないのかなという気がして、マーケットの話に入るわけなんです。
 課題の一つ目として、これまでの流通がありまして、当然問屋さんに、七掛け、国産ワインの場合は、七掛けとか、七掛け半、八掛けとか、輸入ワインは半分くらいの値段で入るのに、国産ワインは高いので、売場に置いても儲からないから置かないということが大きな流れであります。それを解決していく方法は、消費者から選んでもらえるような形で提案をして、売っていくということしかないんですが、一つとしては、ワイン商談会を組合が実施しております。
 商談会が、東京と横浜でやってきている、ワイン酒造協同組合の方ですね。販売組合の方の、展示試飲会です。東京のハイヤット・リージェンシーで今年やったところ400名の方が参加し、そして、横浜のロイヤルパークでは200名の方が参加したということです。これはバイヤー向けと言いつつ、全部バイヤーではないんですが、かなりのレストランとか、ソムリエの方などに来て頂いている事業です。
 それから、県知事のトップセールスということになるんですが、国産ワインを、これは世界発信ということで、日本の在外大使館へ向けてセールスをしました。カンボジアに丸山さんという公使がいまして、半年くらいメールのやりとりをしながら、甲州ワインだけではないんですが、多くの日本大使館でワインを使ってもらうことに成功しました。
それから右の方の写真ですが、山本博さんの協力を得て知事が大手酒販店の会長だとか、こういう方々に、山梨のワインをよろしくというところです。個別のセールスはなかなかできないんですが、全体として、山梨のワインのセールスをしたりしました。
 下の方で言いますと、こちらが、英国日本商工会議所の新年互礼会に行って、ずらっとワインを並べて皆さんにアピールしたんですが、そこで知事がロンドンの経済人に対して、PR をしているところです。会頭が三井物産ヨーロッパの社長で、副会頭が三菱商事ヨーロッパの社長と。そうそうたるメンバーに対して、ロンドンに入った時には、是非飲んでくれというPR をしたところです。こちらの方は、レストランのUMU というところで、トップジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソンや他のジャーナリストに対して、セールスをしてきたということです。
 産地表示の問題は、いくつかあって、五つの団体、これは先ほどの自主基準のもの、それから甲州市のもの、組合のものとありまして、この中で、色々な見方があるんでしょうが、自主基準が全ての国産ワインを対象としたもので、非常に拘束力が強いと。組合とか甲州市のやっているものは、申請されたものだけなんですね。申請しなければ、その原産地を偽ってはいけないんですが、山梨県産と謳っても構わないし、そういうことは全然問題ないということなんです。今、日本のワインの表示基準というのは、こちらの五団体の表示基準が中心となっています。
 では、原産地呼称について石原さん、お願いします。

[石原]
 表示の話をすれば、私はかなりうるさいです。様々な現場を見てきました。まず、先程言った、国産ワインの表示に関する基準というのは、これは、基本的に全ワイナリーが遵守しなくてはいけない自主基準なのです。これは、1985年の、某大手のジエチレングリコール事件不凍液の問題がありましたが、それを機に、暫定的に輸入ワインの使用の有無を謳おうということで始まったわけですね。
平成17年11月22日付けで、ワインへの関心の高まりを受けて、二十数年ぶりに改正になりました。例えば、ヴィンテージ表記は、バルクワイン、マストを使ったものは謳ってはいけないとか、シュール・リーの表記ですが、澱との接触期間が従来より短くなったとか、無添加と標記する場合、要因として表記する酸化防止剤の文字の大きさを上回ってはいけないとか。そんなことが盛り込まれました。では実際、その自主基準というのがどれだけ守られているかということなんですよ。
 今日実は、私がちょっと飛び入りの資料を持って来ました。ここが勝沼のぶどう祭においてクライマックスで、火が点火される鳥居焼です。当地域の鳥居平という表示を実例に、少しお話をしたいと思います。鳥居平というのは、この辺りですね。ローカルな話をしますと、これは勝沼町地籍宝典という役所にある地図なんですが、ここが鳥居です。ここの地域が小字名の道上という地域になり、ここが同じく小字名の上ノ山という地域になります。鳥居平という地域は通称地名ではなく確かに小字名として存在します。それで、鳥居平という地域は、ぶどうづくりにおける名醸地として名高い地帯です。当地域は、畑が南西に向いていて、標高もそれなりに450から500メートルくらいあり、昼夜の寒暖差が大きい。また、笹子おろしという風が吹いて、ぶどうを引き締める。よって、ぶどうはあまり大きくならない。傾斜地であることから、水捌けもよい。更に、笹子おろしがぶどうの房にたまる露を飛ばし、病気を防ぐ効果を持つのです。
 その鳥居平の表示なんですが、鳥居平というのは、甲州市勝沼町勝沼字鳥居平と言うんですね。確かに実在するんです。では、その鳥居平を冠するワインというのは、何銘柄ありますか? ということなんですよ。先程の国産ワインの表示に関する基準の第6条の3項、地域の表示をする場合は「当該地域のぶどうを75%以上使っていなくては駄目」という決まりがあるんですけれど、その鳥居平を冠するあるワインの醸造会社の方に聞いたんですね。貴社では鳥居平という商品のワインがありますが、ではそのワインには鳥居平のぶどうをどのくらい使っていますか?という話をしたら、うちは先程説明させていただきました、前述地域の道上及び上ノ山収穫のぶどうであれば、鳥居平と名乗って良いものと認識しているというんですよ。これって勝手に決めちゃってますよね。私が、把握する中では、鳥居平と冠するワインは10銘柄位あろうかと思います。実際、鳥居平に足を運んでみると甲州種ぶどうは確かに栽培されていますが、そんな10銘柄位のワインが生産醸造される量はありません。だから、自主基準の恐ろしさというのは、そこにあるのかなと思います。
 今は、勝沼町ぶどうの丘では、約180銘柄のワインを販売していますが、これは当市が主催する年5回の審査会をパスしないと販売できないことになっています。この審査会では、ワイン表示問題検討協議会が定めた国産ワインの表示に関する基準というのを遵守するという決まりがありまして、出品時の段階で私が全銘柄のラベル表示を確認しています。つっかえしも結構あります。マスト、バルクワインを使用しているのにヴィンテージ年号表記をしているとか、産地表示を怠っているとか、結構あるんですね。最近は減ってきましたけれど。
 こういった話もあるので、この自主基準という自分達で決めた決まりをワイナリー自身が遵守して頂きたいと思います。これは消費者のために行うことなので、決して行政に言われたからとか、ワインを売りやすくするためとかということではなく、最低限のルールは守ってもらいたいと思います。


まとめ

[笹本]
 時間的にまとめなんですが、そういう現状があるとしても、どういう方向性で行政としてやっていくんでしょうか。

[石原]
 先程、仲田さんが仰ったように、今回、甲州市が制定した、今年から始まります原産地呼称制度も、原料ぶどうの出自を明らかにするということを第一に考えました。これは、今日瓶を持って来ましたけれど、長野県で実施している、長野県原産地呼称制度の認定マークがこれですよね。長野県は2002年から、前知事の田中康夫さんが中心になり創出を致しました。対外的視点からみると、少し認知度が落ちてきたかなと思います。当市も長野県の実例に倣い、原産地呼称制度を創設いたしました。実は、勝沼町の時代、昭和53年から日本初の原産地呼称制度は存在していたのですけど、合併を機に制度を大幅に見直し、甲州市全体に広げ、更に発展させていこうということで、今秋からスタートする運びとなりました。
 原料ぶどうの履歴を明らかにするということがこの制度の最大の目的です。長野県の場合は一番肝心な部分が紙切れ一枚で自主申請されてしまうのです。当市の場合は、そこが自主申告では消費者からの信頼は得られないと判断し、畑の現地確認審査まで踏み込むことにしました。フルーツ山梨農協を経由し出荷する際、既に義務付けられている防除日誌の上部に収穫圃場の生産地番を明記していただくことなど、原産地呼称制度を実施するための態勢を整えました。先程の甲州種ぶどうの話に戻りますけれど、甲州種ぶどうの栽培に関するデータというのは、県にも市にもほとんどないんですね。よってこの制度を機に圃場生産地番を生産者に書いていただくことにより、甲州種ぶどうが何処にどれだけつくられているのかということを把握してゆきたい。この部分を強く意識したのです。
 この原産地呼称制度も、先程、仲田さんが仰ったように任意ですので、拘束出来る部分と出来ない部分があり、そこら辺の調整が難しいところかなと思います。最終的、将来的にはこの原産地呼称制度については県で創設して頂いて、いずれは信州・甲州合同の原産地呼称制度に発展してゆき、やがて日本全体に波及、日本の制度として確立してゆくものであると考えます。この原産地呼称制度に関しては賛否両論見識が分かれます。まず、きっちり生ぶどうからワインを作り、そのワインに用いられた原料ぶどうの出自を保証していく。このことが、高い商品価値を生むと思いますので、そういったところでお役に立つ仕事をこれからも行ってゆきたいと思っています。

[仲田]
 原産地呼称については、県も制度自体は農産品の認証制度は実はあるんです。ですが、ワインについては、ワインの統一マーク制度ということで、組合の方で自主的にやるから、そっちはいいよという話でこれまで来たんですが、やはりこの輸出に当たっては、かなりそういう原産地を明らかに示しておかないと、ヨーロッパの中で、テーブルワインでしか売れない状況になってきています。
 ですから、EU ワイン法に基づく基準がありまして、それらを県の方では、色々学者先生と一緒になって検討しているんです。例えば、こちらは8月1日以降のEU 基準で、下の方が補糖制限が、甲州はB のところですから、アルコール度数で2度のところまでしかできません。ただ、色々例外規定はあって、山梨の甲州は3度まではできるようなんですが、こういう中で、原産地の呼称をどうしていこうかと。先ほど、国の法律に基づく国税庁長官の産地指定もありますので、そういうものを含めて検討を始めているところであります。
 最終的に消費者に信頼されるワインをどういうふうに作っていくかというところで、基準が生まれてくるだろうなということです。
 一番最初の話に戻りますが、足下を固めろと言うことで、EU に出る前に、そういう原料のこととか、原産地のこととかあるんじゃないかということなんですけれど、私は逆だと思っています。山梨のワインをヨーロッパに出す中で、基準が決まっていて、品質が高まっていて、できれば価格帯も少し上がって、甲州ぶどうのキロ当たりの単価も上がればいいなというふうに私は思っているところです。

[笹本]
 これだけ色々な課題がある中で、それでもこの二人は自分の公務員人生というか、生活を本当にかけて、それこそ一所懸命になってやっている、そういった方々が行政にいて、側面支援をしてくれていると。私達ワインツーリズムという立場も、私達の、どちらかというと消費者の立場からどんなことがいいか、産地を知ってもらおう、私達は売り込むというよりも、呼び込むということでやっているわけです。そういう取り組みがいくつかありまして、まずは色々な挑戦があって、課題が沢山あって、その中で試行錯誤しているということを分かって頂ければということで、今日のまとめとさせて頂きたいと思います。


――総合講師(笹本貴之)のコメント――

 仲田さんは山梨県の「ブランド推進監」、石原さんは甲州市の「ワイン振興担当」。実はどちらの職名も、日本で唯一のものです。まさにワイン産地、山梨にしかない職業です。仲田さんが山梨のワインに関わったのが20年ほど前、石原さんが15年ほど前。当時を振り返って、仲田さんは言います。「決して高品質とは言えないけど値段だけは高いワインを如何に売るか。それがずっと課題だった」。
 それでもお二人は、なぜか山梨のワインにこだわり続けました。石原さんは言います。「偶然にも最初の配属先が勝沼のワインを売る部署でした。運命的に出会ってしまったのです」。公務員の世界で出世だけを考えていたら、決して選ばない分野に身を投じてきたお二人は、山梨のワインに何を見出してきたのか。勝沼ぶどうの丘で、地道にも毎年続けているワインイベントの司会をしていた石原さん。偶然見かけた週末の日帰り温泉で、甲州種ワインを一人で2本も空けていた仲田さん。2年ほど前になりますが、まだそんなに親しくなかった頃に、そんなお二人を私は遠くから眺めていたことがあります。私にはお二人の姿はそれぞれ孤高に見えました。私たちが「ワインツーリズム山梨」の活動を始めるずっと前から、公務員としてではなく、一人の県民として覚悟を決め、山梨のワインに人生をかける方々がいたことに、救いを感じました。同志を得た喜びを感じました。
 お二人が山梨のワインに見出してきたことは、「山梨県民としての誇り」ではないか。この地のワインを武器に、山梨の存在感を強くできるのではないか、とかすかな希望を見出して、公務員としてできる地道な努力を重ねてきたのだと思うのです。そして何よりも個人として、「夕べの食卓においしい日本ワインがなくなったら困る」と切望してきたのです。
 実は「ワイン行政」という言葉は、まだ日本には存在していません。しかし、ワイン産地に必ず存在する、ぶどう畑、ワイナリー、市場のそれぞれの立場を理解して、何らかの方針の下で地域として産地を守り発展させてゆくことが必要なのは、明らかなことです。日本で唯一の職名を持つ仲田さんと石原さんによって、縦割り行政ではない実効力のある「ワイン行政」が生まれることを願って。

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