http://www.yomiuri.co.jp/e-japan/yamanashi/

     


1月にロンドンで行った試飲イベントでワインジャーナリストらに甲州ワインを売り込む中央葡萄酒の三沢社長(左)と三沢さんの長女で同社品質管理室長の彩奈さん(手前左)。「各国のワインがひしめき合うロンドンでの挑戦が始まった」と彩奈さんは語る(仲田道弘さん提供)

欧州挑戦 スタート地点に

日本固有のブドウ品種

 この夏、英国・ロンドンの高級日本食レストラン「Roka(ロカ)」は甲州ワインを店のワインリストに追加した。ソムリエのアレッサンドロ・マルケサンさんはいう。「甲州ワインはシンプル、軽い飲み口でほのかに香る。ある程度の客を魅了するだろう」

 追加するのは、甲州市勝沼町等々力のワイナリー「中央葡萄(ぶどう)酒」が醸造した「グレイス甲州」の2種類。7月に船積みされ東京港を出た2000本が3日にもロンドンに陸揚げされる。

    ☆    ★

 甲州ワインの原料となるブドウ「甲州」が8月、「葡萄・ワイン国際機構」(OIV、本部・パリ)に「Koshu(甲州)」として品種登録され、世界の人気品種カベルネ・ソービニヨンなどとともに登録リストに名を連ねた。

 欧州などのOIV加盟国で販売するワインのラベルには、登録品種しか表示できない。輸出した2000本は初めてラベルに「甲州」の文字を冠して欧州市場に挑む。

 中央葡萄酒の4代目社長、三沢茂計(しげかず)さん(61)は「山梨に脈々と伝わる甲州ワインは本場ヨーロッパのワインと肩を並べる力があると信じてきた。ヨーロッパが日本食ブームに沸く今はチャンスだ。市場を獲得したい」と意気込む。


 ワインは現地レストランなどで1本40ポンド(5200円)〜60ポンド(7800円)で提供される見通しだ。

    ★    ☆

 三沢さんが委員長を務める県内ワイナリー16社でつくる甲州ワイン欧州輸出プロジェクト(KOJ)は1月、ロンドンで甲州ワインを売り込む試飲イベントを行った。

 招待された世界のワイン市場に影響力を持つという英国の女性ワインジャーナリスト、ジャンシス・ロビンソンさんは3月、自身の人気ウェブサイトで「甲州ワインは繊細で、清らか、透明感がある。何より日本食とよく合う」と評しながら、こう指摘した。

 「果たして英国のワインバイヤーが1本10ポンド(1300円)で仕入れる良質のマスカットワインより高い金額を甲州ワインに支払うかどうか」

 KOJに参画するワイナリー経営者も、価格の高さを課題に挙げる。

 それでも、約20年間、県産ワインの振興に携わってきた県観光企画・ブランド推進課の仲田道弘さん(50)は語る。

 「カリフォルニアやチリ、オーストラリアの新興産地のワインは、品種を表示することで消費者に香りや味をわかりやすく訴え、価格の低さでヨーロッパ市場の占有率を拡大してきた。甲州はヨーロッパ市場に打って出るため、品種登録してようやく第一歩を踏み出した」

    ◇

 甲州ワインが本場・欧州市場に挑む新たなステージに立った。甲州ブドウとワインを取り巻く現状と課題、作り手たちの挑戦をリポートする。

    □    ■

 「甲州」は日本固有のブドウ品種。皮は薄紫色だが、白ワイン用の原料となる。酸味も甘みも控えめなのが特徴だ。甲州で造ったワインを甲州ワインという。

 ヨーロッパからシルクロードを通って仏教とともに日本に伝来したと考えられるが、由来は定かではない。

 奈良時代に全国を行脚して仏教の布教に寄与した僧、行基(668―749)が718年、勝沼で修行をしていた際、右手にブドウを持った薬師如来が現れ、行基が懐にあった種子をまいたのが始まりとするなどの伝説があり、山梨県に1000年以上前から伝わるとされる。

 鎌倉時代には勝沼を中心に生食用に栽培されていたといわれ、本格的にワイン醸造に使われるようになったのは明治に入ってからだ。

 1998年に酒類総合研究所(広島県)の後藤奈美研究員がDNAを解析したところ、ヨーロッパ系品種で、白ワイン用のシャルドネなどと同じ「ヴィティス・ヴィニフェラ種」に属するという研究結果が出た。

(2010年9月3日  読売新聞)
inserted by FC2 system